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マイノリティにやさしい社会はみんなにやさしい社会~あるLGBT当事者からのメッセージ~ 【carré06掲載】


インタビュー|坂田 麻智さん(左)、テレサ・スティーガーさん(右)


ふたりのこれまで

 2008年、坂田麻智さんとテレサ・スティーガーさ んは共通の友人を通して知り合う。2013年からは、 二人で購入した下京区の町家に愛犬と共に暮らしている。

同性婚が認められていない日本だが、テレサ さんの母国アメリカでは2015年に同性婚が認められるようになったため、かねてから結婚を望んでいた ふたりはテレサさんの郷里であるアメリカで結婚式 を挙げた。


 愛媛県出身の麻智さんは 、小学校の頃に「女の子」を好きになった。ただ、当時はその感情が恋愛か、友情かの区別がつかなかった。高校では、好きになった女性とつきあったが、自身がレズビアンだという認識はなかったそうだ。「当時、レズビアンはテレビドラマや映画の中で異常な愛として描かれることが多く、そのように自分を分類されるのが嫌だった」と言う。高校卒業後はアメリカの大学に進学した。その当時 、親しい友人達には自身のセ クシャリティをカミングアウトしていたものの、同性愛に関して否定的な人はまわりにはいなかったそうだ。その後、日本に帰国し就職してからは、男女を強く意識させられる場面も多く、カミングアウトしづらい環境だったため、自身のセクシャリティもなかなか受け入れられずにいた。「自分はレズビアンなのだ」ということを自己受容できるようになったのは 25~26歳になってからとのこと。


 一方、テレサさんは大学3年生の時にアメリカ人男性と結婚し、大学卒業後に夫婦で来日した。当初から順調ではなかった結婚生活は、日本での生活で更に悪化し、夫との離婚を決意。その時から自分自 身について深く見つめ直すようになり、「これからどういう生活をしたいのか」「どういう人と一緒にいたいのか」と自身に問いかけた時に、自分は女性の 方が好きなのではないか、ということに気が付いていったそうだ。あとになって思えば、かつて女性の 先輩に憧れたことがあったが、カトリックの教えも あり、異性を好きにならなくてはいけない、と知らず知らずのうちにその思いを封印していた。そのため 、「 私は女 性が好きだったのだということが分かった時は、ようやく自分が何者かがわかり、とてもほっとした」と言う。


                      ▲ふたりの愛犬 Rosie(ロージー)


周囲の理解とカミングアウト

 麻智さんは大学時代、一度母にカミングアウトしたが、その時は「病気みたいなものじゃないの」と言われ、とてもショックを受けた。その後、2015年にテレサさんとの結婚式を挙げる際、再度母に連絡をとり、参列してもらいたい旨を手紙で伝えた。その時の返事は「頭では理解しなければと思っているけど、気持ちがついていかない。時間がほしい。とりあえ ず結婚式には行く」というものだった。

 一方で、テレサさんの両親は、麻智さんと一緒に暮らし始める頃から気づいており、すんなり受け入れてもらうことができた。


 まわりのLGBTの人たちの中には、この「家族へのカミングアウト」に高いハード ルを感じている人が少なくないとのこと。「親に否定されたくないし、悩ませたくない」との理由で、カミングアウトをせず、そのために自身を追い詰め てしまう人もいる。 家族以外の人へのカミングアウトも慎重に判断しなければならない。


 結婚指輪をみて、初対面の人から「ご主人はいますか?」などと聞かれるとき 、「主人(男性)ではなくパートナーです」と答えることもあれば、「はい、そうです」と答えることも あるそうだ。「カミングアウトをできる相手かどうか、当事者は相手の言動をよく観察しています」とふたりは言う。

「彼氏(彼女)いますか?」ではなく「つきあっている人いますか?」など、男女だけ ではない可能性を想像して話をしてもらえたら嬉しいとのこと。



                               ▲おふたりの結婚式


制度の壁

 日本では同性婚が認められていないため、法的保障が受けにくい状況だ。

たとえば、住居の問題だと営住宅や民間の家族向け物件に入居できなかったり、自宅購入の際に共同ローンを銀行に断られたりするケースもある。一番大きな不安は、パートナーに万が一のことがあった時だ。病院で手術や入院の同意等は認められるのか、一緒に築いた財産は相続できるのか、葬儀に出席できるのか等、もしもの時の不安が常につきまとう。


 ふたりの場合は、麻智さん名義で購入した自宅は法的にテレサさんへの相続権がない。 遺言によって相続することもできるが、その場合は多額の贈与税が発生することになるという。また、国際カップルの場合は外国人パートナーの在留資格の問題もある。男女の国際カップルであれば、結婚すれば配偶者ビザが取得できるが、同性カップルの場合は法的に婚姻できないため配偶者ビザは取得できない。そのため、永住権が取得できない外国人パート ナーは就労ビザを取得するしかなく万が一病気やケガで働けなくなった時は日本に滞在できなくなる。

 2015年に東京の渋谷区でパートナーシップ宣誓制度(※1)ができ、2020年に京都市で導入された際には、麻智さんとテレサさんも宣誓した。しかし、実際の法的効果はなく、「このような問題を解決す るために、一刻も早い同性婚の実現が不可欠だ」とふたりは言う。


※1 戸籍上は同性であるカップルに対して、地方自治体が婚姻と同等のパートナーシップであることを承認する制度のこと。


読者へのメッセージ

 この5年間でLGBTという言葉に関する認知は進んだ。だからこそ、性の多様性について、子どものころから正しい情報・知識を知ることも非常に重要だ。「人と違うということで、いじめや偏見に苦しむ子どもたちがまだ沢山いる。性は単純に男と女に分けられるものではなく、多様性があるということを学校教育できちんと教えてほしい」と麻智さん、テレサさんは言う。

 同性婚に対しても、とある全国紙の世論調査では 65パーセントが同性婚に賛成、特に20~30代は80パーセントが賛成しているとの結果もある。「若い人こそできる範囲で声をあげてほしい。最初は小さな声でも、仲間が集まれば大きな力になる」と麻智さんは言う。 「10人に一人はLGBTと言われる今、見えないだけで必ずいる。まわりにいないから関係ないとは思わないでほしい」と言う。


 そして次のメッセージもいただいた。

「 もし 、この記事を読む人の中に当事者がいれば “一人じゃないよ”と伝えたい。仲間は絶対にいるし、明るい未来が待っている」と。

 麻智さんとテレサさんは言う。「二人で散歩したり、ご飯を食べたり、そういう何でもない日常にしあわせを感じます」誰しもがこういう穏やかな気持ちで日々を過ごせる、そん な世の中になることを願ってやまない。



坂田 麻智 (写真左)

1979年愛媛県生まれ。高校卒業後、米国に留学。カリフォルニア大学ロサンゼルス校 (UCLA)卒業後、日系大手電機メーカーに就職。財務、海外マーケティングを経て、現在は 調達部門に在籍中。認定NPO法人「虹色ダイバーシティ」理事、「結婚の自由をすべての人に」(同性婚)訴訟の大阪原告としても活動中。


テレサ・スティーガー (写真右)

1983年米国オレゴン州生まれ。オレゴン州立大学音楽学部卒業後、2006年に日本政府主催のJETプログラムで英語講師として来日。現在は、教育関連団体で日本人向け英語教材の開発に従事。好きな日本語は「七転八起」。認定NPO法人「虹色ダイバーシティ」理事、「結婚の自由をすべての人に」(同性婚)訴訟の大阪原告としても活動中。






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